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大阪地方裁判所 昭和44年(わ)4080号 判決

主文

被告人横山博一を懲役二年に、同藤村勇一、同長田喜一を各懲役一年にそれぞれ処する。

被告人三名に対し、この裁判確定の日から各三年間、右各刑の執行をいずれも猶予する。

被告人横山博一ほか一名庁外保管にかかる応接六点セット一組(大阪地方検察庁庁外検領四四年第一〇七号)はこれを同被告人から没収し、同被告人から金九〇〇、〇〇〇円を追徴する。

訴訟費用中証人八田正弘に支給した分は被告人三名の、証人西田昭栄、同橋村敏、同坂本陽三、同中定俊に支給した分は被告人横山博一、同藤村勇一の、証人安藤繁夫、同二上邦人、同関沢成則に支給した分は被告人横山博一、同長田喜一の各連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人横山博一は、昭和二二年九州帝国大学農学部林学科を卒業後同年一〇月帯広営林局官行斫伐事務取扱を嘱託されたのを振出しに、翌二三年二月雇、同年一一月農林技官に任命され、帯広、大阪各営林局勤務、松江、姫路各営林署長等を経て同四〇年八月大阪営林局事業部土木課長に配置換され、同四三年八月一六日高松営林署長に配置換されるまでの間、同課長の職に在任し、上司の命を受け、大阪営林局管内の林道事業の計画・設計・指導、業者の指名選考、直轄工事の施行監督および右事業遂行に必要な物品の調達要求等の職務を担当していたもの、

被告人藤村勇一は、昭和一四年二月から同一七年六月まで兵役に服し、復員後は鉱山で働いたりしていたが、同二四年頃から肩書地で土建業を営む父親の手伝いをするようになり、同三二年六月株式会社藤村組を設立してその代表取締役に就任し、建設省、和歌山県および大阪営林局を得意先として土木建築請負を業とするもの、

被告人長田喜一は、昭和一八年三月本籍地の中学を卒業後同所で父親の土建業の手伝いをしていたが、同三〇年一月頃肩書住居地で長田組出張所名義で独立し、翌三一年四月これを会社組織に改め株式会社長田組を設立してその代表取締役に就任したところ、同四三年四月談合罪容疑で和歌山県警察本部に逮捕されたため、同年六月代表取締役を辞任し妻和子を代表取締役とし、自らは平社員の現場監督指導員の地位に就いたが依然として会社の実権を掌握し、和歌山県および県内各市町村ならびに森林開発公団および大阪営林局を得意先として土木建築請負を業とするもの、

分離前の相被告人柏原清和は、昭和二六年文房具商を営む父親が大阪市北区天神橋筋五丁目に本店を有する株式会社章美堂を設立するやその取締役に就任し、同三〇年からは自ら代表取締役となって同社を経営し、右本店および同市天王寺区茶臼山町阿倍野地下センター支店(同四三年末開店)において袋物、装身具、趣味工芸品等の販売をなす傍ら、同市北区池田町野村ビル二階に事務所を置く外商部において大阪営林局、同管内営林署等に対し、測量器具、山林用器具、作業用具、事務用品等を販売していたものであるが、

第一  被告人横山博一は、

一  分離前の相被告人柏原清和から、前記大阪営林局事業部土木課における測量杭等の調達要求に関し前記株式会社章美堂が便宜な取計いを受けたことおよび今後も同様の取計いを受けたい謝礼の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、

1 昭和四二年三月下旬頃大阪市阿倍野区丸山通一丁目六の二九の当時の同被告人の居宅において、現金五〇、〇〇〇円の供与を受け、

2 同四三年六月上旬頃前同所において、現金五〇、〇〇〇円の供与を受け、

二  被告人藤村勇一から、昭和四三年八月一四日頃前示一の1記載の当時の被告人の居宅において、前示株式会社藤村組が大阪営林局発注の佐渡林道工事、新宮営林署発注の大塔林道中小屋線工事等の施工業者の指名選定等に関し便宜な取計いを受けたことの謝礼の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、現金三〇〇、〇〇〇円の供与を受け、

三  被告人長田喜一から、前示株式会社長田組が大阪営林局発注の大台林道工事等の施行業者の指名選定や同被告人が昭和四三年四月五日頃談合罪容疑により和歌山県警察本部に検挙された際入札業者としての指名を取り消されないよう上司に意見を具申する等のことで便宜な取計いを受けたことの謝礼の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、

1 昭和四三年八月一九日頃同区阿倍野筋三丁目一三番地所在旧グリーンクラブにおいて、現金五〇〇、〇〇〇円の供与を受け、

2 同四四年一〇月三一日頃肩書住居において、株式会社阪急百貨店係員を介し、応接六点セット一組(時価三九、八〇〇円相当)の供与を受け、

もって自己の前示職務に関しそれぞれ賄賂を収受し、

第二  被告人藤村勇一は、被告人横山博一に対し、

一  昭和四三年八月一二日頃前示第一の一の1記載の当時の被告人横山博一の居宅において、前示第一の二記載と同様の趣旨のもとに、当時高松営林局長に転勤が内定していた同被告人がその肩書住居地に新築中の居宅が完成するまでの間家族を一時住まわせるために借り受ける予定であったアパートの敷金として利用させる目的で現金二〇〇、〇〇〇円の供与の申込をし、もって同被告人の前示職務に関し賄賂を供与する申込をなし、

二  前示第一の二記載の日時場所において、同記載の趣旨のもとに現金三〇〇、〇〇〇円を供与し、もって同被告人の前示職務に関し賄賂を供与し、

第三  被告人長田喜一は、被告人横山博一に対し、前示第一の三冒頭記載の趣旨のもとに、

一  前示第一の三の1記載の日時場所において、現金五〇〇、〇〇〇円を供与し、

二  前示第一の三の2記載の日時場所において、株式会社阪急百貨店係員を介し、応接六点セット一組(時価三九、八〇〇円相当、大阪地方検察庁外検領四四年第一〇七号)を供与し、

もって被告人横山博一の前示職務に関しそれぞれ賄賂を供与し

たものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(被告人横山博一の検察官に対する供述調書の証拠能力および自白の補強証拠について)

被告人横山博一の弁護人鷹取重信は、

1  同被告人の検察官に対する昭和四四年一二月一六日付供述調書は、同被告人に対する公訴提起(同年一一月二二日)後における違法な取調に基づいて作成されたものであって証拠能力を有しない旨(弁論要旨第二の四の(1))主張するが、同被告人に対する右公訴提起は柏原清和からの収賄に関する判示第一の一の各事実についてのものであるところ、前示供述調書はこれと異り未だ公訴提起のなされていない判示第一の二、三の各事実をその内容とするものであることが明らかである(右各事実につき公訴提起がなされたのは、右調書作成の翌日である同年一二月一七日である。)から、右主張は既にその前提において失当というほかなく、

2  また、判示第一の二および同三の1の各事実については、各贈賄者はいずれも一貫して金員授受の事実を否認しており、同被告人の検察官に対する自白調書以外に何らの補強証拠も存しないから、同被告人を有罪とすることは許されない旨(弁論要旨第二の三の(6))主張するが、自白を補強すべき証拠は必ずしも自白にかかる犯罪構成事実の全部に亘って洩れなくこれを裏付けすることを要しないのであって、自白にかかる事実の真実性を保障し得るものであれば足りると解すべきところ、本件金員授受の事実については、被告人の自白以外に直接これを立証する資料に欠けることは所論のとおりであるけれども、間接的にこれを推認せしめるものとして、収受した金員の使途に関する被告人の自白(自宅建築資金の一部として工事関係者等に遂次支払い、全額費消した旨)を裏付ける証拠の標目欄3項掲記の各証拠が存するのであるから、自白の補強証拠としてはこれをもって足りる(金員授受の事実があった場合、収受した金員は、現金そのままの形か預金等に形を変えて被告人の手許に残存するか、あるいは何らかの形での支出に当てられて費消されるかのいずれかであり、本件の場合は被告人が建築代金に費消した旨自白してその裏付けがなされているのである。そして、その裏付けの程度は、たとえば紙幣番号が特定されているとか、収受金員以外に被告人の現金収入が皆無であるといった事情があって、被告人の支出した金員がまさにその収受した現金そのものと同一性を有することまで確定できれば最善ではあろうが、現金の性質上その同一性を特定できる場合は稀有と言ってよく、また、そこまで特定できれば最早補強証拠としてではなく、自白の有無にかかわらず独立の証拠として事実認定の資料に供し得る筋合いであるから、補強証拠の問題としてはそこまでは要求されず、被告人の自供する支出金額に見合う現金支出のなされている事実について裏付けがなされれば、自白にかかる事実の真実性は保障されたものと認むべきである。)と解されるから、右主張もまた理由がなく、

いずれも採用の限りでない。

(法令の適用)

法律に照らすと、被告人横山博一の判示第一の各所為はいずれも刑法第一九七条第一項前段に、同藤村勇一の判示第二、同長田喜一の判示第三の各所為はいずれも刑法第一九八条第一項、罰金等臨時措置法(刑法第六条、第一〇条により軽い行為時法である昭和四七年法律第六一号による改正前の規定による。)第三条第一項第一号本文にそれぞれ該当するので、判示第二および第三の各罪については所定刑中懲役刑をそれぞれ選択し、以上はそれぞれ刑法第四五条前段の併合罪であるから、刑法第四七条本文、第一〇条により、判示第一の各罪については犯情最も重い判示第一の三の1の罪の刑、判示第二の各罪については犯情の重い判示第二の二の罪の刑、判示第三の各罪については犯情の重い判示第三の一の罪の刑にそれぞれ法定の加重をした刑期範囲内において被告人横山博一を懲役二年に、同藤村勇一、同長田喜一を各懲役一年にそれぞれ処し、刑法第二五条第一項を適用して被告人三名に対しこの裁判の日から各三年間、右各刑の執行をいずれも猶予し、被告人横山博一ほか一名庁外保管にかかる応接六点セット一組(大阪地方検察庁庁外検領四四年第一〇七号)は同被告人が判示第一の三の2の犯行によって収受した賄賂であるから刑法第一九七条の五前段に則りこれを同被告人から没収し、同被告人の収受した判示第一の一の1、2同第一の二、同第一の三の1の各賄賂は費消されてその全部を没収することができないから同条後段に従いその価額合計九〇〇、〇〇〇円を同被告人から追徴し、刑事訴訟法第一八一条第一項本文、第一八二条を適用して訴訟費用は主文第四項掲記のとおり関係各共犯人の連帯負担とする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山中孝茂 裁判官 半谷恭一 裁判官山川悦男は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 山中孝茂)

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